Eau
渋谷と風呂、というと、実はあまり印象が良くない。
なにしろ彼は熱い湯好きだ。頑固な江戸っ子おじーちゃんじゃあるまいし、なんでわざわざ心臓に負荷かかりそうなお風呂に漬からなきゃいけないわけ? とか言ってみても馬耳東風。だって気持ちいーじゃん、でケロリと終わり。
気持ちよくないよ。熱いよ!
熱すぎず冷たすぎずのお湯に、のんびりまったり溶けるように漬かるのが好きな僕としては、一緒の銭湯巡りとか、一緒の浴槽にドボンとかは遠慮したい。我慢大会じゃないんだから!
「っくしゅ!」
脱衣所に入るや否や、くしゃみ一つ。濡れた服は体にひっついて、なかなか脱ぐことができなかった。寒さに震えていればなおさらだ。この状態をつくった元凶の一人も、同じく濡れネズミ姿で僕を見た。
「大丈夫かー?」
「らいじょーぶ」
答えが鼻声になってしまった。 どうやら思った以上に体調にダメージきてるらしい。風邪なんてひいてる場合じゃないってのに……
僕たちが二人してずぶ濡れなのには、かなり情けない訳がある。まぁ、ぶっちゃけ、ぼくと渋谷のぱんつ争奪戦を見たフォンビーレフェルト卿が、いつものジェラシーを発動させて怒りのバケツシャワー攻撃にでたのだ。
……はっきり言って、とばっちりだ。
ただでさえ寒いってのに、今、夜だよ?! 凍えるって!
おまけにろくに暖房器具があるわけでもなし……仕方なく、僕と渋谷はそろって兵卒用の風呂場に飛び込むことになったんだけど……
……狭そう。すごく狭そう。
もともと交替で入る個室タイプなんだろう。シャワーと浴槽がワンセット。しかも大人が膝抱えて座ればいっぱいっぱいという、長方形ならぬ正方形タイプのお風呂。
五右衛門風呂?! ドカンじゃないけど。
「ふつーの風呂ってこんな風になってるんだ……って、うぉ、ちょ、シャワーと風呂はセットですか?」
先に景気よく服を脱ぎ飛ばして入っていった渋谷が素直な感想。一戸建ての家に住む彼には信じられない状況らしい。安いホテルに泊ったこともないのかな?
「ビジネスホテルとかでもそーだよー? うわ、想像以上に狭いな」
後から入ってしみじみ思ったけど、本当に狭い。これで男二人でシャワーか……まぁ、渋谷だし、似たようなシチュは経験済みだから、いいけど……なんだかなぁ……
見れば渋谷の表情もオカシナものになっている。なに、その情けない眉。しかもこっち見ながら。
僕だって好き好んで二人セットでここ入ってるわけじゃないんですけど?
「渋谷、そんな所で突っ立ってないで、奥行くなりなんなりしてくれ。とにかく体暖めないと」
ただでさえ寒いていうのに、お湯も出さずに突っ立つとは何事か。僕の指示に慌てて浴槽に「えいや」と踏み込む渋谷。後から入る僕。狭い。すごく狭い。ちょっと動くと渋谷とフォーリンラブ状態になる狭さ。
とりあえず、お湯出さなきゃ。……てか、渋谷! 邪魔ッ! 蛇口捻らないなら場所変わってくれ!
「いーからおまえは風呂ん中入ってろ!」
「お湯ないよー?」
「今出すから!」
僕の抗議に渋谷は慌てたように蛇口をひねる。めいっぱい。
すごく冷たい水が降ってきた!
「ひゃあっ?!」
し、し、心臓止まるかと思った!!
「つ、冷た、渋谷! 水! 水ッ!」
ベチベチ叩いて抗議する。
「ちょっと待ってろって! 温度調整は……これか?」
降ってきた。今度は熱い湯が!!!
「熱ーッ!!」
わざとかよ!?
「これっくらい許容範囲だろ!?」
慌てて渋谷の体を盾にして、僕は必死でお湯から逃げる。……狭くて逃げれない!
「どこが? 熱いよ!」
「ちょっと熱いぐらいがいいんだよ!」
ちょっと?! これが?!!
「君は熱い湯が好きだからそう言うけどね! ぬるま湯にじっくりつかるほうが体にはいいんだよ!」
「ああもう! お湯かぶってんのはおれだけだろ?! おまえも被れ! おれを盾にしてんじゃねぇって!」
うわ馬鹿ッ君が逃げたら僕にまともに……
「だから熱いんだってあつあつあつアツ、わざとだろ?」
ベチィッ!
渾身の一撃。腰の辺りをぶったたいた。
「ぶはっ」
なんで笑うわけ?! 
変なスイッチでも押しただろうかと、僕はぎょっと身を退く。けれど狭い浴室の中、逃げれる場所などあるはずもなく。
そして熱い湯は今も僕に降り注ぐ。
……熱いよ!
「なに笑ってるかな?! いいからちょっとお湯の温度、落とせ、って!」
なにしろ渋谷のほうが蛇口と温度調節口の側にいるもんだから、僕の側からは操作できない。せめて渋谷が脇に退くなり場所移動してくれればいけるんだけど……あ、こら!なんで邪魔を?!
「〜〜〜ッ!」
ひたすら熱いのを我慢しながら、僕は必死に手を伸ばした。寸前で届かない。しかも微妙に渋谷邪魔。人が一生懸命になってるっていうのに、わざわざ邪魔するのはなんでだよ?!
「し〜ぶ〜や〜ッ」
絶対にわざとであるはずの相手は、いつになくにやにやと意地悪な顔。なに? そのいじめっ子ぶり。楽しそうに見ちゃって……こっち熱いんだよ!
「お前、本気で熱い湯苦手なんだな」
「前からそう言ってるだろ? 人が苦手なの知って……手ぇどけろよ! もう!」
うははははは、とか笑われた。なにを喜んでるのかな?!
そうこうしている間に、足下にも湯溜まりが。上から降ってくるお湯よりはぬるいけど、僕的にはまだまだ熱く感じるお湯だ。このままこの湯でいっぱいになられるのは勘弁してほしい。
うわ、体がお湯で赤くなってる!
「熱いって! ほら! 腕とかもう真っ赤になったじゃないか!」
急激な温度差というよりも、熱くて赤くなっちゃった肌に渋谷の目も丸くなる。
が、
「肌弱いのな」
ちょっと待て! それだけかよ!?
誰のせいだと思ってるんだか!
「暢気に言ってないで、いいからそっち替われよ」
狭い浴槽内で、渋谷とまるでフォークダンス。ぴったりくっついてターンすれば、綺麗に位置が入れ替わるだろう。いろんな部分が触れてある意味ヤバめ。あらゆる意味で、いろいろヤバめ。
……というか、いやーな予感がするんだけど……?
「うひゃっ」
先手必勝! とさっさと行動に移した僕の脇腹を、渋谷の手がなで上げる!
「ちょ、渋谷?! なに、いきなり……うわ?!」
慌てて離れようとしたけど、遅かった。サッと伸びてきた手が僕の両腕を捕らえてバンザイ。ただでさえ身体能力とか反射神経とかに差があるから、こればかりはどうしようもないとはいえ……
「渋谷?」
相手の、この、なんとも言えない悪魔の微笑。
やばい。やばい。これはもしかしてくても、魔王モード発動中?!
またかよ! と思った。この状態になった渋谷と一緒にいて、ふつーにすんだ試しがない。いろいろやられるこっとに身になってくれ……っていうか、ちょ、ちょっと待てって、なんでそのままゆっくりシャワーの方に動……
「熱ーッ!」
かぶった。頭から被った。あの熱いのを!
鬼ーッ!
思わず縮こまるが、両手はバンザイなので胸とかその下以下略全部ダダ濡れ。熱い! 熱い! 大事なところにまで直撃くるんですけど!!
逃れたくてもバンザイオンリー。がっつり掴まれたままではどうにもならない。せめて足をつっぱねてなんとか体を退こうとしたところで、どうにも足が動かないことに気づいた。
何かで固定されている。いや、戒められて……
お湯?!
「し、渋谷、ちょ……ッ」

   >>>この後やほひレッツゴー状態のため調整中>>>
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