4 触れる小さな熱

 お義姉さまことフェリシエーヌ(やっと覚えた)姫の淑女教育レッスンは、レメクの淑女教育レッスンと『形は』ほぼ同じだった。
 もともと、一月以上かけてたたき込まれた教育である。気合いさえいれれば、なんとか形ぐらいは整えられる。
 しかし、お義姉様のレッスンはレメクよりも厳しかった。
 何が厳しいかというと……
「固い!」
「優雅さが足りない!」
「顔がひきつってますわ!」
「あなた木偶人形ですの!? もっとしなやかに動きなさい!」
 ……コレなのです……
 レメクの時にはお目こぼししてくれていた『優雅さ』や『柔らかさ』を、これでもか! と追求させられているのです。
 カチコチと動くあたしは、フェリ姫に言わせれば「優雅さの欠片もない木偶」であるらしい。さっきから何度もやり直しを繰り返し、へろへろになったところでようやく「よし」が出た。
 ……ちにそうだ……
「まぁ、これなら及第点ですわね。形はわかっていらっしゃるようだから、後はいかに美しくしとやかに『魅せるか』ですわ。……それにしても、クラウドール様もやはり殿方でいらっしゃるのね。形は教えれても、女性特有の『美しさ』を出す仕草はサッパリ……」
 ……レメクにそれを求めること自体、ナニか間違ってやしないだろうか……?
 遠い眼差しになったあたしにかまわず、フェリ姫は優雅に室内を歩きながら、なにやら小声でぶつぶつと呟く。
「おいでになるのは、陛下とロード、宰相閣下、教皇猊下、それにバルバロッサ大神官とアロック様……ご挨拶は体調を考えて略式でお願いするにしても、長丁場となる可能性がありますわね……猊下は極秘でいらっしゃるから、短時間で終わるとしても……飲み物の手配と軽食と……お部屋はこちらを使わせていただくのでかまわないのかしら……」
 ぶつぶつぶつ。
 なにやらとんでもない単語がチラホラと混じっていた気がするが、敢えて尋ねるのも恐ろしい。
(……てゆか、なんで教皇様だなんて……スゴイ人が来るんですか……)
「あなたがクラウドール様とご婚約なさったからですわ。それに、陛下のご息女にもなられたことだし」
 勝手に心を読み取ってくださったお義姉さまが、すかさずそうツッコミを入れる。
 あたしはちょんぼりと床に撃沈した。
「まぁ! ベル!! いけませんわよ。床に倒れるだなんて! だいたい、何です!? その美しくない倒れ方は!!」
 ……倒れ方にもウツクシサがいるのですか……
 床にべちゃっと倒れていたあたしは、めそめそと顔を上げた。
 途端、お姫様がなぜか怯む。
「そ……そんな可愛らしい形を……! ……くっ……優雅さはないけれど、小動物的愛らしさ……それで勝負ということ!? 思ってもみなかった戦略ですわ」
 ……思ってもみなかった解釈です……
 めそめそと床に張り付いたままのあたしに、姫メイドさんの一人が小走りに駆け寄って来る。
「妹姫様。お体が冷えてしまいますので、どうかお立ちくださいませ」
 そして優雅に抱き起こされた。まるでどこかの紳士のようだ。
(……おお)
 新鮮な感覚に驚きながらお辞儀をすると、姫メイドさんはそれはそれは美しいお辞儀をかえしてくれた。
 ……ナニかが負けた気がいたします。
(……あたしには、ユウガさとか、ウツクシサとか……無いのです……)
「無いのではなく『出せていない』のです。誰だって、生まれた時は皆一緒ですわ。泣いて喚いて暴れて終わり。どこに違いがありまして? 何の違いもありはしません。……もし今のワタクシ達に優雅さがあるというのなら、それは鍛錬によって長年かけて身につけたものですわ」
 しょんぼりと俯いたあたしに、胸を張ってお義姉さまがそうおっしゃる。
 だからこそ、今からがんばらなければならないのだ、と。
 いつか優雅で気品溢れる、立派なレディになるために。
「そういうことです」
 またもや勝手に心を読み取ってくださったお義姉さまに、あたしはちょっと遠い目になった。
(いつになったらなれるかなぁ……)
「そう遠くないと思いますわよ。やろうと思えばすぐにでもなれますわ。劇を演じているようなものですもの」
(劇?)
 首を傾げたあたしに、フェリ姫はニッコリと微笑んだ。
「ええ! 人生は一つの劇ですわ! 始めた以上、最期の時まで終わらせることのできない劇! どのように演じ、どのような結末を迎えるかは全て本人次第。劇の中なら、街中の子供がお姫様になることだってできますわ。そうでしょう?」
 あたしは目をぱちくりさせた。
 劇と言われてあたしが思い浮かべるのは、旅芸人の一座が広場でやっていた劇だ。
 貴族や富豪が足を運ぶような劇場のチケットは、あたし達のような貧困層ものには手が出がない。入場料がものすごく高くて、とてもじゃないが観るなんて出来ないのだ。
 だが、王都の大広場で開催される一座の劇は違う。
 大きな円形広場に布で巨大なテントを作って、その中で演目を披露するタイプだからだ。
 入場料は銀貨3枚から銅貨5枚まで様々あり、端っこの方ならあたし達のような人間でも入場できる。もちろん、普通はやっちゃいけないが、こっそり入ってタダ見していくことだってできちゃうのだ。
 ……見つかったら後でコッテリ怒られますが……
 ちなみに一座のお手伝いをかって出れば、入場料無料で劇が見れる上、お駄賃までいただける。もちろん観客になれるのは全公演日程中せいぜい数時間程度だが、それでもあたし達にとってはとんでもない特典だった。
 劇の演目はいろいろあるが、一番人気なのは恋物語ラブ・ロマンス。身分差のある男女がドキドキハラハラ苦難を乗り越え、試練を突破し、やがて迎えるハッピーエンド! ラストでは、一緒に観ていた子達とキャーキャーはしゃぐほどの大盛りあがりなのである。
 超うっとり。
(ああ! あたしもいつかレメクと……!!)
 脳裏にぽわわんとレメクを思い浮かべます。
 想像の中のレメクは、あたしを怯えたような目で見つめながら華麗に微妙な逃げ腰に。……ナゼに想像の中でもつれないのでしょうね、オジサマは。おまけに想像するたびに怯えの色がひどくなってる気がいたします。
 ……それはともかく。
 劇の中では役者がお姫様や王子様になって、キラキラした世界をあたし達に見せてくれる。
 もちろん、それは舞台上のことであって、現実のお姫様や王子様になるわけじゃない。
 けれど、舞台の上の王子様は、現実の王子様よりキラキラしてるし、お姫様もとても愛らしくて素敵だった。
 いきなり現実で「お姫様になりなさい!」と言われたって、そんなに急になれるわけがない。
 けど、演技するのだと思えば……舞台の役者さんみたいに、演じるのだと思えば……
「お分かりになったようですわね?」
 目をキラリと輝かせたあたしに、フェリ姫は満足そうに頷く。
「今でしたら、丁度ルドヴィカの新作劇がやっていますわ。『アウトレーゼの姫君』はとても素晴らしい出来で、ワタクシ、観ているだけで胸がいっぱいになってしまいましたのよ! 小国の姫君と騎士の物語……はぁッ……あんなに素敵な恋が出来れば、きっと人生は何倍も素晴らしいでしょうに……!」
(……あの伯爵とはソンナ恋にならないのだろうか……?)
「伯爵は、まぁ、アレぐらいでいいのですわ! べ、べつにワタクシ、それほど不満ではありませんことよ? ええ、多少うっかり者で女の人が大好きであっちこっちでニヤニヤしてだらしなくてどうしようもない方ですけれど!!」
 ぎりり、とフェリ姫の羽扇子が異様な音をたてた。そのままへし折られそうな勢いだ。
(お……お義姉さま、落ち着いて……!)
「え、えぇ、ワタクシ、落ち着いておりましてよ? エエ。あんな人のことで心など乱してなるものですか。今日もガルシア伯のご令嬢のご機嫌伺いですって? 勝手に行けばよろしいのよ!!」
 ……なんだかものすごく大変そうだ。いろんな意味で。
 思わず冷や汗が流れます。恐い恐い。
(でも、それならどうして、婚約なんかしたの?)
 恐る恐る心の中で尋ねたあたしに、心を読み取ったフェリ姫が軽く目を瞠る。
 そうして、微妙に視線を逸らしながら言った。
「……ワタクシ達の婚約や結婚は、言うなれば国の政策の一つですもの。ワタクシ達の自由になるようなものではありませんわ」
(エ)
 あたしは絶句した。
(ということは、下手をすれば、あたしも見知らぬ誰かのところに……!?)
「クラウドール様がいるかぎり、それはあり得ませんわ」
 あっさりとそう言って、フェリ姫はサッと姫メイドさん達に目配せをした。
 姫メイドさん達は素早く部屋の四隅や窓際、暖炉脇などに散り、キリッとした眼差しで頷きを返す。
(……おりょ?)
「ベル。これから申し上げることは他言無用でしてよ?」
 そっと体をかがめ、あたしのすぐ近くでフェリ姫は声をひそめた。
「ワタクシ達の婚約は、国の政策と……ワタクシは言いましたね?」
(はい)
 あたしは頷く。フェリ姫もゆっくりと頷いた。
「王家の娘の結婚は、個人の自由になるものではありません。国同士の結びつきや、有力貴族との結びつきのために行われるのが普通です。事実、ワタクシ達は、陛下の忠実な部下として、娘という立場をとり、誰かの元に降嫁することになっているのです」
(……忠実な、部下?)
「ええ。契約をいたしましたもの。この身と引き替えに、現状の打破と輝かしい未来を」
 胸を張って言うフェリ姫に、あたしはじっと息をすらつめて彼女を見つめ続けた。
 お義姉さまは宛然と笑う。
「アザゼル族は流浪の一族ですわ。この身に受け継がれる血統魔術により、かの降魔大戦でも指導者ナスティアをよく助けたとされていますけれど、現在はほとんどが遊牧民として、あるいは旅芸人として各地を転々とする少数の民族です。農耕で自らの生きる土地を定め、人を増やし続けたパルム族と違い、ワタクシ達の数はとても少なかった」
 そうして視線を遠くへ馳せたフェリ姫は、どこか空虚な眼差しで声を零す。
「ワタクシの母は、ある劇団の女優でしたの。劇場で公演をすれば、全席を埋め尽くせるほどの名女優であったそうですわ。その母を見初めたのが、ワタクシの父であるシュヴァルツブルク侯爵──いえ、元侯爵ですわ」
 ──元。
 その言葉に、あたしはキュッと唇を引き結ぶ。
 フェリ姫はそんなあたしを見て、ちょっと口元を笑ませた。
「シュヴァルツブルク家はもうありませんわ。領地も親族達に奪われてしまいました。爵位こそ手放しませんでしたが、家もなく土地もない身では、爵位などあっても意味がないもの。当時のワタクシはわずか五つでしたが……負債を減らすため、結婚のお話も、持ち上がっていたのです」
(…………)
 あたしはそっとフェリ姫の手を握った。綺麗なお義姉さまの手は、表面がほんのすこしひんやりしている。
 けれど、握っているとすぐにそれがほんのりと暖かくなった。
「陛下に養子の話をもちかけられたのは、それよりも前のことでしたわ。父は国の要職に就いていましたし、陛下とお会いする機会にも恵まれていました。ワタクシの力のことで、ご相談にのってくださったこともあるようなのです」
(……力?)
「ええ。アザゼル族の血統能力でもある、心話です。今、あなたの心を読み取っている能力ですわ」
(なるほど)
 あたしはフンフンと頷いた。すると、フェリ姫はちょっと苦笑する。
「素直というのは、素晴らしいことですわね。あなたはまるで、海綿が水を吸うようにいろんなものを吸収してしまうのでしょう。偏見や独断を挟まずに」
 ……それは買いかぶりというものです。
 なにせレメクやケニードとの初対面時、思いっきり偏見をもっていたのはこのあたしなのでございます。
 昔のイロイロと思い出しながらそう心の中で呟いたあたしに、フェリ姫は柔らかく微笑んだ。
「……ねぇ、ベル。大昔、アザゼル族の『心話』は、それほど特殊な能力ではありませんでしたのよ? 魔法というものが、この大陸に残っていた時代……その頃ならば、ごくあたりまえの能力だったのだそうですわ。言語が発達する前からもっていた基本能力だとすれば、ワタクシ達の一族は、原初の頃からそれを無くすことなくただ持ち続けているだけ、ということになるのでしょう」
 難しく言われて、あたしは微妙に眉を垂れさせた。
 頭の中で整理整頓。
 簡単に言うと、原始人がもってた能力を、失わずに持ってるってことですね?
「……ちょっと引っかかりますが、まぁ、そういうことです」
 コホン、とお義姉さまは咳払い。
 何か言い方がまずかっただろうか?
「まぁ、もっとも、アザゼル族の『心話』は、無節操に誰彼かまわず人様の頭の中を覗き込むようなものではありませんけれど。心を開いて……簡単に言うと、心の中で『こちらに語りかけて』いらっしゃる方の言葉や、強い感情を伴った言葉、そういったものを読み取ってしまうだけなのです」
(……つまり?)
「つまり、『本来は』あなたが内緒にしておきたいことや、心の中に仕舞っておいてあることまでは、ワタクシ達には読み取れないということですわ。ワタクシ達だって、好きで読んでいるわけではありませんもの」
(……ありゃ)
 あたしはバツの悪い思いで首をすくめた。勝手に読み取られていると誤解していたのだ。
「ええ、よくそう誤解されてしまいますわ。けれど、ワタクシ、陛下ともお約束しましたのよ。国家の大事や『どうしても必要』な時以外は、みだりに人様の心の中を覗いたりしない、と」
(ふむふむ)
「逆を言えば、どうしても必要な大事な時だけは、ワタクシは人の心の中を覗きます。そしてその力こそが、ワタクシの父が陛下に相談した事なのですわ」
(相談した事……?)
 どこかしょんぼりと肩を落としたフェリ姫に、あたしは首を傾げた。姫メイドさん達が、気遣わしげな眼差しを彼女へと向ける。
 フェリ姫はぽつりと呟いた。
「ワタクシは……生まれつき、読み取る力が強かったのですわ。お母様には聞こえない『隠された』心の声さえも、ワタクシには普通に……そう、ちょっと小声程度の形で、聞こえてきてしまっていたのです。あの頃、幼かった私はそのことに気づかずに、ごく普通にそれを交えて会話をしていたのです。……周囲は大混乱に陥りましたわ」
 ……それはそうだろう。
 心の中の声まで筒抜けで、それに対するコメントを子供から返されれば、場合によっては修羅場や愁嘆場に発展するだろう。
「その頃、お父様には愛人がいたのですわ」
 ……ド修羅場だ。
「貴族ですもの。そういったことがあっても不思議ではありませんわ。アザゼル族は重婚可能な一族でいたから、別にそのことに対してそれほど強い反発があったわけではありませんのよ? ……けれど、父はパルム族でしたの」
(げ)
 あたしは目を剥いた。
 フェリ姫は頷く。
 重婚はおろか、愛人を認めることすら稀な、パルム族が浮気!?
「それはもう、大騒動でしたわ。その頃、運悪くお父様が出資していた事業が破綻し、商会が倒産してしまったのも逆風となってしまいました。父は爵位を追われ、けれど家屋敷や土地を売っても爵位にだけはこだわり続け……ワタクシを五十も上の貴族に嫁がせることで負債を補おうとしたところで……葡萄酒にあたってお亡くなりになってしまいましたの」
(…………)
 あんまりな内容に、あたしは絶句してただ話に聞き入る。きゅっと強く手を握ると、フェリ姫はほんのりと微笑んだ。
「陛下は、それよりも以前から……ワタクシの力を知った時から、養子に来ないかと話を持ちかけてくださっていました。ワタクシの力は、制御しなくては本人はおろか周りまでも破滅させるだろうから、と。……陛下も、真実の紋章と、ご自身のもつもう一つの紋章のせいで、ワタクシと同じ……いいえ、ワタクシ以上の苦痛を味わっておいでになったのです」
(アウグスタの持つ……紋章?)
「ええ」
 頷いて、フェリ姫はものすごい至近距離まで顔を近づけ、あたしに小さく耳打ちした。
「王国の秘宝の一つ──光の紋章です」


 光の紋章。
 その名前にあたしは目をまん丸に見開いた。
 闇があるなら光があるのは道理だが、そんなものを……アウグスタが持ってる?
 そして──
(……光の紋章って、どんな紋章……?)
 あたしは大きく首を傾げた。
 炎とかそういう、わかりやすいモノならなんとなく『こうじゃないかな?』と想像できるのだが、光なんて言われるとピンとこない。
 夜にカンテラがわりに明かりを灯す能力……じゃあ、無いよね? 
「光の紋章とは、名の通り『光』そのものの力。闇夜を照らすこともできれば、光そのものの持つ純粋な熱で物を焼き尽くすこともできる力です」
 ……なんか意外だ。もっとキラキラした、明るい感じのものを想像していたのだが。
「強い光は強い熱を伴いますわ。時に炎よりも強く、純粋に対象を消滅させてしまうほどの力なのだそうです。伝承によれば、紋章の中でも一・二を争うほどの攻撃力を秘めた紋章なのだそうですわ」
(そ……そうなんだ)
 あたしは絶句した。なんかもう、想像以上に危険な紋章のようです。
「紋章の中でも、光と闇、罪と罰、火・水・土・風・雷・雪・鋼は特に攻撃力が特化しているので有名ですわ。とはいえ、ワタクシもそちらの分野にはあまり詳しくはありませんから、一般教養範囲の中で、のお話ですが」
(……その一般教養も無いあたしって、いったい……)
「あら。王族としての一般教養ですもの。これから覚えていけばよろしいのよ。……さて、その光の紋章ですが、ワタクシ、この紋章の最も恐るべきところは、人の精神を支配することにあると思いますわ」
 人の精神を……支配する?
 意味がわからずに眉をひそめるあたしに、フェリ姫は軽く肩をすくめる。
「『人は光と闇の両方から成り立ち、体は闇の領域、精神たましいは光の領域となる』……ということはご存じ?」
(その言葉は……)
 いつか、どこかで聞いたことがある。
 今ではない時、此処ではない場所で。
(……ポテトさん……)
「……! ……そう……そうなのですの。あのロードが、自らあなたに語られたのですね」
 なにかひどく畏れ多いものを語るように、フェリ姫はブルリと体を大きく震わせた。
 ……というか、ロード、ってナンダロウ?
「あなたが、その……『ポテト』という風に呼んでいらっしゃるお方のことですわ。その名前は、あの方の──言うなれば『召使いとしての』お名前なのだそうですわ。そんな名前、畏れ多くてワタクシどもでは使えませんでしょう? ですから、あの方をお呼びする時は、ロード──ナイトロード様とお呼びするのですわ」
 ナイトロード
 あたしはポテトさんの凄まじいお顔を思い出した。
 ……なるほど。『ポテト』という名前よりは似合ってる。
「あの方のことは……まぁ、謎の人、というのが王宮全体の強制認識ですから、ひとまず横に置いておきますわね」
 ……お義父さま。謎の人で通っているのか。
 てゆか強制認識ってナンダ……
「件の光と闇の領域の言葉は、そのまま紋章にも当てはまるのだそうです。『闇の紋章』が肉体を司り、『光の紋章』が精神を司る。光の紋章をお持ちの陛下は、あらゆる全ての人間の精神を覗くことも、操ることも、壊すこともできるのだそうですわ。……人としての意識が、それを許容することができれば……のお話ですけれど」
 お義父さまの不思議認識に首を傾げていたあたしは、フェリ姫の言葉にちょっととまどった。
(えぇと、ちょっぴり聞き逃しちゃったけど、つまり、光の紋章というのは、心を覗いちゃったりできる、ちょっとアレな紋章なのですね?)
「……エエ……まぁ……敢えてツッコミはいたしませんわ。その程度の認識でもよろしくてよ?」
 微妙に怒られました。
「コホン。そんな紋章を宿しておいででしたから、陛下もかなり辛い思いをされたらしいのです。……ベル。想像ができまして? お部屋に誰もいなくても、いつでもどこからか声が聞こえてくる、ということがどういうものか。一人部屋に蹲っていても、呪うような恨み声や、けたたましい金切り声や、大笑いや、口にするのもおぞましい言葉が聞こえ続けるということが……どういうことなのか」
(…………)
 あたしは力無く首を横に振った。
 正直、想像もつかなかった。
 フェリ姫は力無く微笑む。
「……ええ。想像がつかなくて、当然ですわ。ワタクシにも、あなたが今まで経験してきたという、下街の暮らしは……想像もつきませんでしたもの。そんな風に、人は、自らが経験したことでなければ、辛さや痛みを本当の意味では理解しえないのでしょう。想像したり、おもんぱかることはできますが」
(…………)
 あたしはコックリと頷いた。
 互いに手を強く握り合う。触れあった小さな熱に何を感じたのか。フェリ姫はさっきより元気に微笑んだ。
「陛下は、ワタクシの苦しみも悲しみも、全て理解してくださいました。同じ苦しみを味わった者として。陛下は、自分に苦しみを解いてくれた人がいたように、ワタクシにとって自分が、苦しみを解ける者になれればいい……そう言ってくださったのですわ」
 お義姉様は、そう言って自分の額を指した。
「ベル。ここをよく見ていてくださいませ。一瞬だけですから、見逃してはいけませんわよ」
 あたしはその白い額をじっと見つめる。
 ふと、その額に赤い何かが浮かんだ。一瞬だけ。すぐに消えてしまったそれは、小さな円を中心に、上下左右に羽根のような模様を伸ばした形をしていた。
「今のが『光の紋章』の加護──その紋様です。この力によって、ワタクシは制御できなかった強すぎるアザゼル族の能力を、他の同族と同じぐらいに引き下げることができました。……完全に無くすことはできませんでしたが、日常生活には困らなくなりましたわ」
(……お義姉さま……)
 なんと言っていいかわからず、あたしはギュッとフェリ姫の体を抱きしめた。
「……ありがとう、ベル。けれど、ワタクシはまだマシですわ。ワタクシの力は種族特有のもの。幼い頃でも、お母様という理解者はおりましたもの。……けれど、陛下はそうではなかった。紋章という尋常ならざる力を宿したために、どれほど運命を狂わされてしまったのか……」
 ギュッと抱きしめ返してくれたフェリ姫に、あたしはやるせない気持ちで唇を引き結んだ。
 人の心を読める──その苦痛は、あたしにはわからない。
 けれど想像することはできる。読みたくもない心を読んでしまう苦痛。知りたくない本音を嫌でも知ってしまう苦痛。……知っている。世の中は、善意で満ちているわけでは無いことを。
 知らなければ知らないままでいたほうがいい……そんなことが数多くかることを。
 もしそんなことまでも『知ってしまう』状態になって……理解者のいないまま、一人で苦しまなくてはならなかったとしたら……それはどれほど苦痛だろうか。
「ワタクシは紋章を宿すことはできません。ですから、紋章を身に持つ方々の苦しみはわかりません。……けれど、紋章が紋章である限り、なにかしらの苦痛はあると思いますの。例えどのようなものであれ……あの力は、人ならざる者の力なのですから」
(……人ならざる者の、力……)
 あたしは目を瞠った。
 脳裏に畏怖をたたえたレメクの瞳が浮かんだ。

 ──それは人の手にあるまじき、人ならざる者の力です。

 そう言ったレメク。けれどあれは、紋章では無く魔法のことを語っていた。
 けれど──
「紋章術というのは、血で継承する純粋な血統魔術です。けれどそこに宿る力は、人の手で創り出されたものではありません。……紋章術とは、尋常ならざる強大な力を、『紋章』という形に押さえ込んだもの──ワタクシはそう聞いてます。今はもう伝説でしかありませんが、遙か昔、山が吹き飛ぶほどの強大な火の力が世に現れた時、その『力』を自分自身の『身』に封じ込めた偉人がいたのだそうですわ。その方が、現在のクラヴィス族の始祖なのだそうです。……そして、封じ込めた力が象ったのが【炎の紋章】。同じように、国一つ水没するほどの水の力が現れ、その力を封じた時、その方の身に現れたのが【水の紋章】と呼ばれる力なのだそうです」
(……それって……)
 息を呑んだあたしに、フェリ姫は頷く。
「……ええ。そもそも紋章術というのは、この世界の力そのものを身の内に封じ込めることで生まれた魔術です。かつてクラヴィスと呼ばれた男が成し得た奇跡の秘術が、今日の紋章術なのですわ。もう何百年も昔のお話のようですから、それを知っている者は稀でしょうが……指導者ナスティアや、彼女と共にあった同族の勇者というのは、皆そのクラヴィスの末裔なのだそうですわ」
 あたしはぼんやりと頷いた。
 だからこそ、彼等は『クラヴィス』族と呼ばれたのだ。かつて偉業を成し、その成果でもある紋章を一族に継がせた男の名をとって。
 今日、この国がナスティア王国と呼ばれるようになったように。
「一族名に関しては、我がアザゼル族も同じですわね。確か、一睨みで竜をも殺したとされる勇者の名をとって、一族の名としたのだそうです」
(一睨みで?)
 目をパチクリさせるあたし。
 睨み一つでドラゴンを倒すだなんて、いったいどんな勇者なんだろうか?
「アザゼル族の血統魔術は精神魔術ですもの。いくら強固な鱗をもっていても、精神を殺されては生物は生きていけませんでしょう? ……もっとも、そんな強い魔術を使える者など、もう一人もいないでしょうけれど」
 ……なるほど。
「そんな風に、一族名というのは誰かの、または何かの名前をそのままつけていることが多いのです。メリディス族は、確か医術に長けていたことでついた名前だと伺いましたわ。メリディスの血統魔術は何だったかしら……?」
 すみません。存じません。
 しょんぼりとしたあたしに、フェリ姫はちょっぴり苦笑する。
「まぁ、仕方がありませんわよね。あなたも、早くにお母様を亡くされたのですものね」
(……あなた『も』?)
「ええ。ワタクシのお母様は、お父様と一緒にお亡くなりになってしまいましたもの。葡萄酒の中毒で」
 そのとき、なぜあたしの頬がピリッと震えたのか、あたしにはわからなかった。
 頬を押さえて首を傾げているあたしに、フェリ姫はそっと目を伏せる。
「陛下が迎えに来てくださったのは、お父様とお母様の葬儀を執り行う直前でしたわ。勝手にワタクシの籍をご自分の籍に入れようとしたバンカム侯爵から、ワタクシを救ってくださったのです。そうして、ご自分の養女としてワタクシを迎え入れてくださったのですわ」
(……アウグスタが)
「ええ。陛下が」
 頷いて、フェリ姫は強い眼差しで顔を上げた。
「だから、ワタクシは陛下のためならばなんでもいたしますわ。陛下はワタクシをレンフォード公爵の公子、シーゼルに嫁がせるおつもりでいらっしゃいます。シーゼルは末の公子ですが、ご兄弟の中で一番お母上の身分が高いのです。故に、時期レンフォード公爵とみなされています。その方の後見人として、陛下がつく。そのために、王女の称号を得たワタクシがシーゼルの元に嫁するのです」
(……そのために)
「そう……ですがこれは、何もレンフォード公爵……というより、シーゼルのためだけのことではありませんわ。前国王の妹君が降嫁されたレンフォード公爵家には、もっともっと強い絆が必要なのです。マルグレーテ様はお美しく、才気に溢れた姫君でいらっしゃいましたが……それ故に、今も王家の椅子に未練がおありのようですから」
 あたしはぎょっとなってフェリ姫を見る。お義姉さまの目はギラギラと熱く輝いていた。
「おわかりかしら。未来のお義母さまは、シーゼルに期待しているのですわ。今の陛下には御子がおられませんもの。王家の直系と呼べるのは、陛下を含めてわずか五名だけ。それほどに少ないのです。シーゼルは、前国王陛下の妹君の血を引いておいでです。さらに、シーゼルのお父上であるレンフォード公爵のお父様は、前々国王陛下の弟君でいらっしゃいました。つまり、血がとても濃いのです」
 ……確かに。
「王家直系の男子であるアルカンシエル様は高齢の上、教皇の座にお就きですし、ステファン老はお亡くなりになってしまいました。マルグレーテ様は降嫁されたので、ご自身以降の血筋は王族ではありません。レンフォード前公爵はご存命ですが、なにぶんご高齢でいらっしゃいますわ。その御子でいらっしゃる現レンフォード公爵は、王族の血に連なるだけで、王族そのものではありません。シーゼルも同じくです」
 なるほどなるほど。
 あたしはフンフンと頷く。
「ですが、王族の血を濃く引く男子というのは、とても貴重なもの。故に、シーゼルはとても微妙な位置にいるのです。下手に他の有力貴族とくっつき、国家の転覆を謀られては一大事ですからね。ワタクシがしっかりあの男の首根っこをひっつかまえて押さえつけないといけないのですわ……!!」
 ……なんだか最後の部分に、異様な気迫を感じました。
「なにせあの男、すぐにフラフラとあちこちに……! ……い、いえ、ワタクシは、時期レンフォード公爵夫人として、そして陛下の忠実な部下として、あの男……いえ、あの方の手綱をとっておかなくてはいけないから、怒っているのですわよ? あんな男……いえ、あの方の浮気性に、苛立っているわけではありませんわ」
(……イエ……あぁ……)
 あたしは一生懸命ツッコミを飲み込んだ。
 飲み込んだのだが、心の中はバレバレだった。
「違うと言っておりますでしょう!? ワタクシは、あんな浮気男のこと、なんとも思ってなどいませんもの! そうよ! あの時、ワタクシを助けてくれるよう、陛下に頼み込んでいかれたのだって、どうせワタクシがとても美しかったから、ちょっと魅了されてしまっただけのことですわ!」
 なにやら不思議な言い訳をされている。
 しかし、それにしても……
(……お義姉さま。アウグスタの養女になる前から、シーゼルと知り合ってたんだ?)
「存じません!!」
 ものすごい勢いでピシャリと言いきられた。さっきまでのヒソヒソ声はいったいなんだったのか。
 唖然としたあたしとプリプリしているお義姉さまに、部屋で番人よろしく立っている姫メイドさん達がくすくすと笑っていた。
「と、とにかく! そんな風に……ワタクシ達『王女』は、あらゆる事態を想定して、あちこちに嫁がされる、言うなれば陛下直属の私兵なのですわ」
 後半を小声で言って、フェリ姫はあたしと繋いでいる手とは別の手で、指折り数えながら言った。
「第一王女であられたマリアンヌ殿下は、東のバルディア国に嫁がれましたし、第二王女であられたエリーナ殿下は、北のアシリア王国に嫁がれました。第三王女であれれたルイーゼ王女は、南のイルベスタン王国へ。第四王女ナザゼル殿下と第五王女ナフタル殿下は、共に西のイステルマ連邦共和国の方に嫁がれています」
 あたしもちっこい指で数えた。
 ひーふーみー……えぇと、五までわかって、十一番目がお義姉さまで、十二番目があたしだから、あと五人かな?
「一応、後で系譜を見ていただきますわ。それに、教本をいくつか持って来て差し上げます。王女として知っておかなければならないことは、山のようにありますからね。貴族年鑑デブレットも全部覚えてしまわなくてはいけませんことよ?」
(デブレット?)
 首を傾げるあたしに、フェリ姫はムンッと胸を張る。
「高位の貴族になれば、第二第三の爵位ぐらい持っています。例えばワタクシの婚約者であるクレマンス伯爵は、レンフォード公爵家の末の公子でいらっしゃいます。ですが、正式に名前を言う時は、伯爵はレンフォードでは無くクレマンスを名乗ります。……では、クレマンスという名前がどこから出てきたのか」
(どこでしょう?)
 さらに首を傾げたあたしに、フェリ姫は指を一本ピンと立てて言った。
「答えは簡単ですわ。レンフォード公爵の持っていらっしゃる二番目の爵位が、伯爵。そのタイトルがクレマンスなのです。そして公爵の嫡子であり、時期レンフォード公爵であるシーゼルは、このタイトルを名乗るのですわ」
(ほぅほぅ)
 あたしは感心するやら呆れるやら。なんともいえない嘆息をついて頷いた。
(なんてややこしい……)
「慣れればそうでもありませんわ。けれど、名乗る名前が血縁を示す名前で無いのですから、何かで確認しないと誰が誰と血縁であるのかわからなくなってしまいますでしょう? ですから、貴族年鑑デブレットが必要になるのです。そこに全て載っているのですもの」
(……ひぃぃぃ……)
 言っちゃあなんだが、そんなものを見せられたところで、あたしにはきっと覚えきれないと思います!
 さすがに血の気が引いたあたしに、フェリ姫は苦笑する。
「まぁ、そんなに怖がらないで。これらも自然と身についていくと思いますわ。要は慣れですもの。それに、クラウドール様やアロック様がご一緒なら、お二方が全てご存じですわ。あのお二人は生きた辞典のようなお方ですし」
(……生きた辞典……)
 あたしは二人の顔を思い出した。
 ……確かに、あの二人の物知り具合は尋常でなく凄まじい。生きた辞典とは、まさにその通りだ。
(……ん? てゆか、ケニードのこと知ってる……?)
「あら、知らないレディなんておりませんわよ? あの方は、とても素敵な宝飾類を数多く取り扱っていらっしゃるのですもの」
(なるほど)
 あたしは納得した。
 そう言えば、ケニードはアロック宝飾店の店主様でもあったのです。
「王宮のレディのほとんどは、あの方の店の顧客ですわ。ご本人もとても素敵な殿方ですもの、当然ですわよね。あの方とクラウドール様が並ぶと、それはもう見事で……!」
 どこかうっとりとそう言うフェリ姫に、部屋中の姫メイドさん達も一斉に大きく頷く。その揃った頷きと握り拳と夢見る瞳がとても気になった。
(有名……なんだ?)
「ええ! それはもう!」
 ……そうなんだ。
 あたしはちょっぴりしょんぼりと肩を落とす。
 そりゃ、レメクはものすごく素敵だし、ケニードだってとても美形だ。どっちも非常に目立つ外見だから、一人や二人、憧れてる女性がいたって当たり前だと思ってたけど……
(なんか……複雑……)
 ちょっと寂しいような悔しいような、どこか悲しいような……しょぼぼんぼん。
「あら、何を落ち込んでいらっしゃいますの? ご自分のご婚約者が人気で、何が悪いというのです? それに、あの方は大変厳格で冷たいお方ですから、遠目に憧れる方は多くいても、近くに寄れる者など一人としていませんでしたわよ? アロック様も素敵で可愛らしいお方ですが、違う意味でワタクシ達など眼中外でいらっしゃるようですし」
(? そうなんだ?)
「ええ。そうですとも」
 しょんぼりコテリと首を傾げるあたしに、フェリ姫はフフフと謎笑顔。
「だってアロック様は、クラウドール様に憧れていらっしゃるんですもの。うふふ。ワタクシ達でどんな誘惑をしたって……ねェ?」
「「「「「左様でございますわ、姫様」」」」」
 見事に揃った声で姫メイドさんが鮮やかに笑う。
 その全員の超笑顔がスゴイ謎。
(……なんで嬉しそうなんだろうか、みんな……)
 確かにケニードはレメクスキスキ人間だが。
(でも、ケニードは前の第二王妃様がすっごく好きだったんだから、同じようなタイプの人に弱いと思うんだけど……?)
 あたしは心の中でフェリ姫に問いかけた。
 途端、フェリ姫がギクリと身を強ばらせる。
「ベル! ……その方のお名前は、決して王宮では出してはいけませんことよ」
(……その方のお名前……?)
 あたしは眉をひそめる。
 フェリ姫は一層声をひそめて言った。
「……前レティシア第二王妃様のことです」
 その瞬間、姫メイドさん達が一斉に息を呑んだ。ぎょっとした顔で、慌てて周囲の気配を深く探る。緊迫感が伝わってきて、あたしは思わず身を縮こまらせた。
(な……何? この反応……?)
「まぁ! ……当たり前ではありませんの! 誰があなたにその名前を語ったのか……あぁ……いえ、アロック様でしたら、あのことをご存じなくても仕方ありませんものね。もうずいぶん昔のことですし」
 十二歳の少女に『ずいぶん昔のこと』と言われても、年代がちょっとわかりません。
 困り顔で見上げるあたしに、フェリ姫は仕草でカウチを薦めてくる。並んでそこにチョコンと座ると、フェリ姫は小声のままで語った。
「ベル。先程に増して、このことは他言無用ですわよ。あなたも王家の娘となったからには、これは絶対に知っておかなくてはいけないこと……だからワタクシは語るのです。いいですね?」
 強い眼差しと声に、あたしはおずおずと頷く。
 なんだか、とてもオオゴトな予感。
「レティシア様のお名前は、王宮では禁忌なのです。まして陛下の養女となったワタクシ達は、決して口にしてはいけない御名なのですわ」
(……なんで?)
 あたしは首を傾げる。
 フェリ姫は一層声をひそめた。姫メイドさん達も万が一の盗み聞きを警戒しているようだ。
 そんなに気を遣わなくてはいけない『内緒話』というのは、いったいどういうものなのか。
 あたしは背筋を這う嫌な気配を感じながら、じっとフェリ姫の言葉を待った。
 フェリ姫が口を開く。
 そして、ほとんど消え入りそうな声で小さく、こう言った。

「その方は、陛下を亡き者にしようとし、果たせず自害された方だからです」

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