終章 魔法使いと騎士 本格的な冬になった頃、ラグナール孤児院はいつもよりも賑やかに雪に閉ざされた日々を過ごしていた。庭には巨大な雪だるまが点々と鎮座し、屋根の雪もいつもより早々と下に落とされている。 台所でシチューを煮込んでいたルディは、苦笑とも微笑ともつかないものを口元に浮かべながら、幼い弟妹達の相手をしている一番上の「兄」を振り返った。 「ゼノ! そろそろ出来上がるよ!」 その声に力強く「おお!」と応える声が聞こえてきて、ルディは微かに微笑む。 冬に入る前にこなした依頼のおかげで、ゼノは冬の間休暇を与えられた。いや、実際のところ、休暇というよりも謹慎処分なのだが。 「……まったく」 ここに彼がいることを嬉しく思うと同時、その理由を思い出してルディは苦笑した。少しだけくすぐったいような気持ちになるのは、どうしても仕方がないだろう。本来なら、ほぼ無期限の謹慎となってしまった彼を、しかも決まっていた副団長就任の話しまで流れてしまった彼を、同情するべきなのかもしれないが…… 「……馬鹿」 小さく呟きながら、けれどルディはひどく嬉しげに笑ってシチュー鍋を持ち上げた。 きっと今頃、騎士団は大変なことになっているだろう。次の副団長となる男が謹慎処分になっただけでなく、騎士団長自身も入院中なのだから。 彼を入院送りにした当人は、拳に巻かれた包帯を邪魔そうにしながら、長い粗末なテーブルに皿を並べている。後先考えない無鉄砲さと、これからの栄達をあっさり投げ捨てる剛胆さに、ルディは申し訳ない気分になった。 「……あのさ、ゼノ」 鍋をテーブルに置いたルディに、ゼノは「ん?」と首を傾げる。ルディは大まじめに彼に告げた。 「オレさ、早くナイスバディになってお礼するから、もうちょっと待ってくれよな」 鋼の心臓をもつ騎士は、その一言に持っていた全ての皿を落っことした。 END ←戻る 進む→ 目次ページへ 総合案内へ |
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